陰の中に陽を隠し持った日本文化
日本の文化を陰陽で眺めてみましょう。
陰は遠心性、陽は求心性です。
茶室は何の飾り気もない四畳半ほどの静寂な空間です。
この小さな空間から無限の宇宙に心が広がていく侘び寂びの世界です。
華道もまた四季折々の自然の姿を観賞して宇宙に想いを寄せる芸術ですね。
つぼみの中に未来の可憐な花の姿を閉じ込めています。
墨の濃淡だけで、観る人の想像をどこまでも膨らませてくれる墨絵。
日本文化の根源には華やかさがないように思えますが、
鑑賞する人をこれほど華やかな世界に導いてくれる文化は他に類を見ない。
陰の中に陽を隠しもっている日本の文化は、日本人の心の中に現代でも
生き続けています。
絵の一つもない茶室、たった一つの色(墨)で描く墨絵、花の美しさが
見えないつぼみの妙味、5、7、5だけで自然の風情を醸し出す俳句、
日本文化は何もかも陰性を帯びています。
阿吽の呼吸で相手を思いやる心根は、西洋人には理解できないかもしれません。
しかし、時代とともに陰の文化が薄れてしまって、陽の華やかさばかりが目に
つくようになりました。
人生もまた然り、「上善如水」と説いた老子の教えが身にしみる昨今です。