ふとひとり旅に出かけたくなることがありませんか。
ある日、岸壁に座り込んでじっと沖合を眺めていた老人のことを思い出した。
還暦を迎える少し前、丹後半島に出かけた時の話です。
微動だにしない老人の姿に、なぜか魅了された。
子供の頃、真っ赤に染まった夕焼け雲に乗りたくて、時間の経つのを忘れ、眺めていたことがある。
その時と同じように水平線の彼方の舟が夕陽で赤く染まっていた。
老人と海と小船は、一枚の絵を眺めているような不思議な感覚でした。
老人は沈みゆく夕陽と自分を重ねているのだろうか。
それとも眼前に広がる大海へもう一度船出をしたいと願っているのだろうか。(と、感じられた)
海が夕闇に包まれた時、気がつくと老人の姿は消えていました。
ホテルの部屋に戻ってから、あの老人はもう一人の自分だったような気がした。
『人生は全てが凝縮された一枚の絵なのだ』と思った。
その一枚の絵の中に幼少の頃、現在、そして未来が映し出されていた。
時々、ひとり旅に出かけたくなることがあります。
それは人生を取り戻す旅なのだと、その時気づいた。